さて、前回は自分の中にある体の地図「ボディ・マップ」をアップデートすることを体験いただきました。
前回の話題の中では指の関節に関するボディマップをアップデートしましたが、今回は自分の動きの中心となる頭・首・胴体(軸)のボディマップについて考えてみます。
腕や指のことで悩んでいたのに、軸のことを知ると「悩みがするっと解消した」なんてこともあります。
少し長めの記事ですが、楽器の演奏をする方々はぜひご覧ください。
目次
頭・首・胴体の動きがとっても大事!
胴体って?
「胴体」と聞いてどの部分を連想しますか?
胸やお腹、腰のあたりと思われている方も多いと思います。
「頭と首、四股を除いた全ての部分」が「胴体」と定義されています。
演奏となんの関係があるんだろう?と思われたでしょうか。
楽器演奏は全身運動
呼吸が大事になる管楽器はもちろん、弦楽器や打楽器においても演奏というのは全身運動です。意識しているかどうかに関わらず、全身が協力して演奏が成り立っています。
そして、歌の方においても管楽器奏者においても、呼吸で特に大事とされるのが胴体の働きです。
そして、腕や指、脚や足などの末端においても、実は頭や胴体の動きにとても影響を受けています。
さて、突然ですが、私たちと同じ哺乳類の仲間、シャチの写真です。
この体の中身がどうなっているかというと…
実はこうなっています!
胴体部分である体の中心に頭の骨と太い背骨があります。
シャチのような高い運動能力は頭と背骨で作られている「軸」の部分が大きく影響しているようです。
外から見ていると、中がどうなっているか、なかなかわからないものですよね。
この話は別の記事で書いたので、興味がある方はぜひご覧ください。
アレクサンダー・テクニークの基本原理
腕や指など末端の動きやすさに関わるのは実は軸だった!
さて本題です。
人間も同様で、外側だけを見ていると備わっている機能や動きがわからない部分があります。
でも、体の中に骨格をもっているからこそ、楽器演奏を含めた活動が自由にできるのです。
人間の頭・首・胴体部分の軸と言われる部分について、骨格を見ていきます。
①正面から ②横から ③斜めから
このように見て見ると胴体の部分というのは、体のうちのかなり広範囲に渡ります。
楽器演奏で使うことになる腕や指は、もともとは胴体とつながっているため、胴体の動きやすさに大きく影響を受けるのです。
私もそうですが、一生懸命指の練習をしているとついうっかり忘れてしまうことも多々あります…。
でも頭や首、胴体といった自分の中心部分の自由さがあるからこそ、腕や指を自由に動かすことができます。
また、演奏家が大事にしたい「呼吸」は主に胴体で行われることなので、胴体の動きにかなり影響を受けます。
一生懸命やればやるほどうまくいかないときに知っておきたいこと
さきほど、胴体の定義についてお話ししました。
当たり前なことについても前提として確認しますが、胴体と首、頭は繋がっています。
実は、頭・首・胴体の繋がりや関連性に着目したのが、アレクサンダー・テクニークです。
日常生活の中で、または楽器演奏する中で、頭や首の動き、頭・首・胴体の繋がりに着目することはおそらくほとんどないのではないでしょうか。
私もアレクサンダー・テクニークを学ぶまでは関連性を意識したことはありませんでした。
頭に音を響かせようとかおでこに響かせよう、というような響きの意識はありましたが、アレクサンダー・テクニークとは少し違うものです。
楽器演奏を一生懸命やればやるほど、
- うまく指がまわらなくてイライラ
- アンブシュアが気になってしまう
- 腕がつかれるけどどうやって軽減したらいいのかわからない
- 息が続かないけどどうしたらいいのか
様々な悩みが出てきます。
そして、必死に頑張れば頑張るほど、うまくいかないその部分的なものにしか目がいかなくなり、さらにうまく動かない。。という悪循環を経験されたことのある方はおそらく多いのではないでしょうか。
実はその悩みの解決に繋がる可能性があるのが、頭・首・胴体のつながりに着目したアレクサンダー・テクニークです。
いったいどういうことなんでしょうか。
アレクサンダーさんの発見
19世紀のオーストラリアの俳優F・M・アレクサンダーさんが、俳優活動の中で声が出なくなるという深刻な事態に陥りました。
その時、何ヶ月もかけて自分自身の動きを観察し、アレクサンダーさんが発見したのが「頭・首・胴体の繋がりや関係性が、全身の動きや機能に影響をする」ということでした。
その発見により、アレクサンダーさんは俳優として再度活躍することができたのです。
このアレクサンダーさんの発見を使っていこうとしているのが、「アレクサンダー・テクニーク」といわれているものです。
大事なことなのでもう一度書いておきます。
アレクサンダーさんの発見は、「頭・首・胴体の繋がりや関係性が、全身の動きや機能に影響する」ということです。
本来もっている力を最大限発揮したい!と思ったときに知っておきたいこと【プライマリーコントロール】
自分自身がもっている力を思う存分発揮できたらいいのになぁ。
そんな風に思うこと、ありますよね。
私は特に極度のあがり症で十数年悩んできたので、これについて幾度となく考えました。
人間は本来、もとから備えているすばらしいバランス調整機能があります。
普段意識することなく使っているので、そのすばらしい機能に気づく機会は少なくなりがちです。
アレクサンダーさんは、頭・首・胴体が本来持っている機能を邪魔をしなければ、自分自身がよりうまく動くことができるということに気づいたのです。
アレクサンダーさんの場合、頭・首・胴体がより自分の機能に沿って動いてくれることで「声を出すこと」が劇的に改善したということです。
この自分自身が本来もっている機能のことを「プライマリー・コントロール」といいます。
私もアレクサンダー・テクニークを学びはじめたときはよく勘違いしていたのですが、「プライマリー・コントロール」とは、自分自身で何かをコントロールするものとは少し違います。
「頭と脊椎の関係性において、本来備わっている機能を邪魔せず使えることで全身が協力してくれる」ということが「プライマリーコントロール」です。
頭ってどこだのお話
この記事では、頭・首・胴体がたくさん出てきます。
では改めて、頭ってどこのことなんでしょうか。
実は下図で水色になっている下顎の骨は解剖学的には頭には入りません。
耳の後ろ側にでっぱっている骨があります。
頭の1番下の部分の骨でここはさわることができます。
頭と首の骨のボディマッピングをしよう
頭の骨と首の骨が出会っているのは耳の穴の少し下と鼻の下あたりを結んだところにあります。
頭の1番下の部分、みなさんがイメージしていた場所と比べてどうでしょうか?
意外と高い部分にあるんだなという感想を抱く方が多いようです。
そして、首の骨の1番上に頭の骨が乗っかってバランスをとっています。
頭に首の骨が刺さっているわけではありません。首の骨の上に頭の骨がふんわり乗っかって、体重の1割とも言われる頭を支えてバランスをとっています。
体の中の1番高いところにある関節のため、トップジョイントと言われたりします。(※解剖学的な正式名称は環椎後頭関節です)
からだの中の1番高い関節「トップジョイント」で動けることを知りつつ、
頭が動けるとそれに繋がっている首も胴体全体も連鎖的に反応し、自由に動くことができます。
ここまで、頭と首の1番上の骨がどのような関係になっているかを説明し、ボディ・マッピングしました。
首の下がさらにどうなっているのか、さらにマッピングを続けていきます。
【重要】すべての動作は頭と脊椎があるからできる
当たり前なことですが、細かいテクニックやアンブシュアや高い音、大きい音などが気になれば気になるほど、このことを私は忘れがちになります。
- アンブシュアを作るための顔まわりの筋肉を動かすこと
- 楽器を操作するために指を動かすこと
- 楽器をもつために腕を使うこと
どんな繊細な動きであっても、すべてにおいて頭と脊椎(軸)が自分の中心にあるからこそできる動きです。
ここで改めて、脊椎について見てみます。
暗闇に浮かびあがる中途半端なガイコツ。。
不気味な感じですみません。笑
中途半端ともみえるこの骨格ですが、実はとても重要な意味があります。
この骨たちをあわせて解剖学的には、軸骨格といわれています。
この記事の中で、頭・首・胴体と説明していた部分のことです。
軸骨格は、頭蓋骨、肋骨、胸骨、脊柱(頚椎・胸椎・腰椎・仙骨・尾骨)の80個の骨で成り立っています。特に、頭と背骨は、体全体を支えるという重要な役割を担っており、さらに動きの軸となっています。
軸骨格であるこのガイコツくんたちは、人間の骨格構造の中でとても重要なことを教えてくれます。
- 脊椎にはS字カーブがあること。人によってカーブの具合は違います。
- 実はガイコツにはウエストの部分に区切りがあるわけではないこと。
- 頭のすぐ下から始まっている首の骨(頚椎/けいつい)から退化した尻尾の骨(尾骨/びこつ)までひとつながりだということ。
人間もからだの中心部はヘビのようにひとつながりで、全体が協調しあって動けているんですね。
アレクサンダー・テクニークの基本原理を演奏に使うための具体的なやり方
アレクサンダー・テクニークをやりたいことにいかしたいとき、こんな風にいったりします。
よりしっくりきそうな言い方をチョイスしてみてください。
- 「頭が動いて、体全部をついていかせながら」やりたいことをしてみよう (例えば楽器を演奏する)
- 「頭が動くことをお願いして、体全部がついていって」やりたいことをしてみよう (例えば腕をあげる)
- 「首が楽で、頭が動けて、体全部がついていって」やりたいことをしてみよう(例えば深呼吸をする)
ホルン奏者でアレクサンダー・テクニーク教師であるバジル・クリッツァー先生のブログや著書の中でもこの基本原理はよく出てきます。
バジル先生は「頭が動いて身体全部をついていかせながら」やりたいことをやってみよう、という表現を使われることが多いです。
アレクサンダー・テクニークを教えている先生によっても、言葉は少しずつ異なります。
また、場面によってもいろんなバリエーションがあります。
【番外編】脊椎動物の動きの秘密
また、脊椎動物の動きについて、小野れい先生のブログで以下の紹介がありました。
とても興味深かったので、こちらでも紹介します。
脊椎動物の体の動かし方は、アレクサンダー・テクニークで提唱されている基本原理と非常に合致するものでさらに理解が深まります。
以下、引用させていただきますので、興味がある方はぜひ動画もご覧ください!
【以下、引用】
NHKの教育用動画素材を集めたWEBサイト”NHK for School” に「脊椎動物の体の動かし方」という動画がありました。これを見てみると、脊椎の動かし方はそれぞれ少しずつ違うものの、どの動物も(人間の赤ちゃんも含めて)、行きたい方向に頭から動いていって、それに胴体がついていく様子が分かります。「頭が動けて、からだ全体がついていく」これが本来、生物が動いていくために備わっているシステムなのだと改めて実感できる動画でした。
同じく”NHK for School”の「脊椎動物とは(X線)」という動画を見てみると、脊椎動物は背骨を中心として体が動くしくみになっていることがよくわかります。
引用元: とあるラッパ吹きのつぶやき
まとめ
この記事では頭と脊椎のボディ・マッピングをしました!
実は、アレクサンダー・テクニークにおいて超重要事項です!
もしかしたらまだまだピンとこないかもしれません。
知っていくうちにどんどん変化していきます。
まずは知っていくだけで大丈夫です。
興味が湧いた方は、ここで書いた構造のことをイメージしつつ、アレクサンダー・テクニークプチ体験をぜひ楽器でやってみてください。
もしかしたら、いつもと違う音がでるかもしれません。
もしかしたら、いつもより楽に音がでるかもしれません!
ひとりでやっていてもよくわかんないなぁ…という方はサポートしますので、ぜひ体験レッスンにお越しください。
【おまけ】肩こりが消えたお話
余談ですが、私はアレクサンダー・テクニークを学びはじめてから肩こりが一切なくなりました。
別に肩こりをなくそうと意識していたわけではありません。
体の仕組みについて知って、使い始めたからなんでしょうね。ラッキーでした!
楽器を演奏するときだけでなく、
指揮をするときも、
話をするときも、
今のようにデスクワークをしているときも、
家事をするときも、
いつでも体の構造を知って使っていくと、徐々に自分の体への負担が軽減されていったのを実感しています。
一生付き合っていく大事な自分の体ですので、前より体が軽く感じるようになったのは嬉しいことです。
長い記事でしたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。