20年越しの再挑戦 vol.2 〜決断と日々の試行錯誤〜

あがり症・緊張

「挑戦しようと思った自分」を受け止めるということ

前記事:20年越しの再挑戦 vol.1 〜のぞみと向き合うということ〜
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https://otoraku.info/2025/05/01/vol01/

 

半年間悩み続けた末に、「やってみよう」と決めたのは、ある方からいただいた一言がきっかけでした。

「今、“本番の自分”は信じられなくても、
今、“挑戦したい”と思っている自分だけは、信じてあげてもいいんじゃない?」

この言葉にふれたとき、それまで張り詰めていた何かがふっとほどけたように感じました。
完璧な準備が整っていなくても、過去の失敗を克服できていなくても、「それでも今挑戦したい」と思っている自分の気持ちは、本物だと思えたのです。

挑戦を決めたあとは、ただがむしゃらに練習するのではなく、自分自身の「心」と「体」と丁寧に向き合う日々を再スタートしました。

  • 月1回のトランペットのレッスンを月2回へペースアップ
  • 日々、アレクサンダー・テクニークを丁寧に実践すること
  • メンタルトレーニングを習慣とし、鍛錬を積むこと
  • 日々の生活の中で、体と感情の小さな変化に気づくこと

「できるようになること」だけを目指すのではなく、
今の自分をどう受けとめるか」「自分の中にある感覚にどう寄り添うか」
そうした問いかけをくり返しながら、少しずつ、自分自身と音楽との距離が変わっていきました。

“楽器をもっていない時の過ごし方”が大きなカギ

「プレルーティーン」が自分のコンディションを整える

毎日の練習をする中で、今までとは違ったレベルで気をつけていたことがあります。
それは、「楽器をもっていない時の過ごし方」です。

この時間の質を高めることが、
実際に楽器を手に取って練習した時の「質の違い」として現れはじめました。

私が実践していたプレルーティーンは以下の3つです:

  1. 感情を無視せずにケアする
     → 練習に気が乗らない日は、「気が乗っていない」ことに気づくことからスタート
  2. 自立訓練法で、心身を調整する
     →練習前に自律神経を整えることは想像以上に効果大⭕️
  3. 股関節のストレッチと表情筋トレーニング
     → 呼吸をスムーズにすることと、演奏に必要な筋肉を目覚めさせること
  4. すべてのプロセスにおいて、アレクサンダー・テクニークを使うこと
     →呼吸と鼻腔の奥の広がりとともに頭がふわっと動けること
     →自分の全体がつながっていること

楽器をもつ前にこのルーティーンを丁寧に実践するようになってから、
日々の楽器のコンディションが驚くほど安定するようになりました。

 

日々の波が、パフォーマンスの質に直結する

特に今回演奏した曲は、84分にも及ぶ長大で難易度の高い楽曲でした。私が今まで取り組んできたオケ曲は全部で100曲以上ありますが、トップクラスに難易度の高い曲なのは間違いなく、その日の演奏のコンディションが悪く不調に陥ると、練習すら困難になるほどでした。

具体的な「不調」の例としては…

  • 高音があたらない(ハイトーンのソロが多いこの曲においては致命的)
  • バテやすい(通常の3倍ほどの分量があり、これも致命的)
  • 音が響かない、音が抜けない(100名以上のオケに対して、1人で通る音を出す必要あり)
  • タンギングがうまく反応しない
  • 楽器のツボにあたらない感覚

これらを1つひとつ乗り越えていくには、日々の演奏のコンディションの安定が欠かせませんでした。
当たり前のようですが、難曲だからこそ特に演奏のコンディションの安定が大事だと気づきました。
だからこそ、「楽器を吹いていない時間」にどう過ごすか、どう整えて練習時間を迎えるかがとても重要だったのです。

 

「コンディションが整っている」からこそ挑戦できる

毎日毎日の体調の揺らぎや感情の揺らぎは当然あるものです。その揺らぎや波の中で、どれだけ自分で調整した状態で楽器を吹けるか、日々試行錯誤やチャレンジが続きました。揺らぎや自分の中に生まれてきた感情を否定すると、大なり小なり体の反応が起きます。体や感情の摩擦が起きた状態で、演奏のコンディションを整えていくのは困難だとたびたび実感がありました。
不安や焦りのような感情が起きた時、それを無視していると、脳の中の扁桃体(危険察知をする部分)からのアラームが鳴り止まない状態になるそうです。生命反応として、とても重要な部分なんですね。

扁桃体からのアラームを止めるには不安を感じた時に、「不安なんだ」と受け止めてあげること受け止めることで、体の反応が確実に減るのを何度も実感しました。

日々の演奏のコンディションを整えるために、自分の体と感情を丁寧に向き合うこと。
試行錯誤の中でそのスキルを確実に磨くことができたこと。

この実感は、今回の再挑戦において、確かな支えとなってくれました。


20年越しの再挑戦 vol.1 ーのぞみと向き合うということー
20年越しの再挑戦 vol.2 ー決断と日々の試行錯誤ー
20年越しの再挑戦 vol.3 ー本番の舞台で見えた景色ー
20年越しの再挑戦 vol.4 ー本番で発揮できた集中力の理由ー

20年越しの再挑戦【総集編】大曲に向き合った1年間