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20年越しの再挑戦 vol.1 〜のぞみと向き合うということ〜
20年越しの再挑戦 vol.2 〜決断と日々の試行錯誤〜
本番当日の舞台袖は、やはり怖かったです。正直、開演の10分前には、かなりの恐怖の感情がありました。
何度も練習してきたはずの冒頭のソロ。
それでも、「本当にできるのか」という不安と緊張が一気に押し寄せてきました。
けれど、そのとき、アレクサンダー・テクニークで実践し続けた「五感をフルに使う」「体全部が音楽をすることに協力してくれる」という感覚やこれまで何度も取り組んできたリラクセーショントレーニングや、どこかにちゃんと残っていてくれました。
「自分にとって、本当に大事だからこんなに緊張しているんだ」
「この曲にもう一度チャレンジできることそのものに感謝」
「怖さを感じながらでも、前に進んでいい」
そう思って、一歩、舞台へ踏み出しました。
演奏がはじまり、低弦のA音(ラの音)のダウンボウの連打が始まった瞬間に訪れた不思議な感覚がありました。
それは、「これ、よく見たことのある景色だ…」と感じたこと。こんな感覚ははじめてでした。
ここ数ヶ月、くりかえし取り組んできたビジュアライゼーショントレーニングの成果だと、直感的に感じました。
演奏が始まってから冒頭のソロにいたるまでの1分間の過ごし方は、その時に最適だと思えるプランを全部で6つ練っていました。
- 余裕をもった準備
- 息の流れ。ため息のような自然呼気を大事に。
- ぴたっと!(マウスピースと唇の接触)
- 首とベロの力を手放し、ベロは上に上げておく
- ⛵️(表情筋:しなやかなアンブシュア筋)
- 空間全部を意識に含めて、オケと自分の響きを聴くこと
*このすべてのプロセスにアレクサンダーテクニークを使いながら実践
そして、その6つのプランを実行する鍛錬を日々重ねていました。そのおかげか、冒頭のソロにいたるまでの1分間も【よく知っている経験】【よく実践してきたこと】と思えたことも正直驚きの感覚でした。
1番心配していた冒頭のソロで、音を出したその瞬間、「大丈夫かもしれない…」と思えたのです。
音楽の流れとともに、オーケストラの響きを体全体で感じることができました。
ひとりで演奏しているのに、「ひとりじゃない」と感じられた本番は、初めての経験でした。
84分にも及ぶ長大で難曲でもあるため、本番の舞台で至らなかった技術的を突き詰めれば、課題はいくつもあります。
緊張状態のソロの中で、体がこわばる場面も何度もありましたし、アンブシュアの感覚がいつもと違う感じがあったりと、当然そういったこともありました。
それでも今回は、「ちゃんと音楽と向き合えた」「自分と向き合えた」という実感が、なによりの成果でした。20年前の傷を自分自身で癒せてあげたような感覚もありました。20年前、本番の最中に自分を否定し続けたその感覚がとにかくつらかったのだということにも、ようやく気づきました。
絶望感と孤独感だけを感じて過ごした、20年前の自分には到底想像できなかった「再挑戦ではじめて見えた景色」だったように思います。
20年越しの再挑戦 vol.1 ーのぞみと向き合うということー
20年越しの再挑戦 vol.2 ー決断と日々の試行錯誤ー
20年越しの再挑戦 vol.3 ー本番の舞台で見えた景色ー
20年越しの再挑戦 vol.4 ー本番で発揮できた集中力の理由ー
20年越しの再挑戦【総集編】大曲に向き合った1年間